第10週 好きを働くチカラへ

2011年8月8日(月) 14:51

学生の皆さんはもうすぐ夏休みですね。高校3年生の皆さんは進路決定の季節だと
思います。今週は進路選択について少しアドバイスします。

私は建築の設計を手がける建築家ですが、他に野外イベントの企画や照明デザイン、
ディスプレイ、まちづくりなども手がけています。
建築の分野に進もうと思ったきっかけは、両親の友人の建築家の方の自由な
ライフスタイルに憧れたのと、自宅の改築工事で建物が建ち上がる様子を間近に
見ていたことでした。
一方、建築の設計以外の仕事を手がけるようになったきっかけは、私がデザインの
大学の教員ということもあり、ふとしたことから「いいアイディアはないか?」、
「何かアドバイスをもらえないか?」といった相談が私のところに舞い込んできた
ことです。
それらの相談事の多くは私の専門外の内容でしたので、他の人を紹介するとか、
簡単なアドバイスをするだけでも良かったかも知れません。
本を買って勉強したり、専門知識を持つ友人や知人に意見を求めたりしながら、
とにかくその仕事をこなしてみようと一所懸命取り組みました。
それらの分野に元々興味はあったので、これを機会に挑戦してみようと思ったわけです。
こうした「チャレンジ」を繰り返すうちに、次第に手がける分野が増えてきました。

ではどのように進路を決めたらいいのか考えてみましょう。
長岡造形大学は「好きを働くチカラへ」というコンセプトで、入学前や在学中に興味を
持ったこと、趣味と関わりのあることが社会でどのように生かせるか、
どのような仕事に結びつくかを見つけるお手伝いをしています。
好きなこととずっと付き合って行かれたら楽しいですよね。
そんな仕事を見つけることで「好き」が「働くチカラ」になっていくのです。
皆さんがもし何か興味を持っていることや好きなことがあれば、それがどんなふうに
自分の将来に生かせるか、どんな仕事に結びつくかを考えてみると、その進路に
相応しい進学先を選ぶのに役に立つはずです。
また、少しでも興味があることに関われる機会が訪れたら、タイミングを逃さず、
果敢にチャレンジしてみることをお薦めします。
きっとあなたの新たな可能性の扉が開くはずです。

高校生の皆さんは、夏から秋にかけて数多く行われるオープンキャンパスを
活用するのも良いでしょう。
多くの大学では様々なワークショップや体験講義が行われます。
既に進みたい分野がある皆さんは分野別ワークショップや講義に参加してみると
良いと思います。
この夏、あなたが目指す進路をオープンキャンパスで探してみてはどうでしょうか?

第9週 コラボレーションの可能性

2011年8月8日(月) 14:45

皆さんは「コラボレーション」という言葉をご存知でしょうか?
一見、一人で手がけているように見えるデザインでも、たった一人のデザイナーの
手だけで完結しないことが多いのです。
大量生産メーカーとトップブランドが一緒にカジュアル製品を開発したり、
スポーツ用品メーカーと情報家電メーカーがフィットネスや健康管理をすることが
できる製品を共同開発したりといった「○○と△△のコラボ」というのがありますよね。

例えば、ユニクロとジル・サンダーのコラボや、アップルとナイキのコラボといった
ものがありました。
異なる消費者層向けの製品を扱う企業や、異なる業種の企業同士が得意分野を活かし、
ひとつの目的や用途に向かって協働で製品開発や新提案に取り組むことは、
今や日常的に行われています。
それぞれが役割を分担しながら、最終的には利用者が求めるものを提案するために
協働するということは、広告、グラフィック、建築など、デザインの分野では
ごく一般的に行われています。
異なる分野の人々が得意分野や持ち味を活かして協働でデザインに取り組むことで、
先週お話しした「幸福な偶然」の産物として優れたデザインが生まれることが
期待されています。こうしたコラボレーションが成功するためには、協働する人達同士が
十分にコミュニケーションをはかり、それぞれのチカラを最大限に発揮することが
大切です。
 
以前にお話しした「モノづくり」と「コトづくり」の連携によるデザインも非常に
分かりやすい例ですが、製品開発以外に、企画や広報や販売という役割があります。
小さな企業であれば、それらの役割をたった一人で手がけることもありますが、
皆さんがご存知の多くの企業はそれぞれの役割を複数の人々が分担しています。
また、この番組のパーソナリティの今井美穂さんがモデルとして活躍しながら、
「新潟県を元気にする」という志をともにする県内の企業と取り組んでいる
活動についてお話をうかがったこともあります。
この「教えてデザイン」という番組も、デザインの大学、地域活性型モデル、
FM放送局という、もともと別々の役割や仕事を手がけている3者がコラボレーションで
つくっている番組です。

新潟を元気にする学生・企業・市民に「デザインのチカラ」を伝えていこうという
共通の目的を持つ、コラボレーションによるデザインなのです。
夏に行われる長岡造形大学のオープンキャンパスでは、この番組のタイトルと関連する、
「デザインってなに?」という企画を準備中です。
この番組とオープンキャンパスとのコラボが実現するかも知れません。

第8週 伝わるデザイン

2011年8月8日(月) 10:58

皆さんは、「どうしてそんなアイディアを思いついたの?」と思うような
素晴らしいアイディアに出会ったことはありませんか?
今週は、「アイディアはどのように生まれるか」について考えてみたいと思います。
アイディアは普段の生活の中でいきなりひらめくこともあるでしょうが、
いつも都合良くひらめくわけではありませんよね。
ですから、アイディアは素晴らしいひらめきから生まれるものばかりではないのです。

デ大の学生はアイディア出しのトレーニングをしています。
与えられたテーマやキーワードに関して、思いつくものをそれこそ何十も何百も、
「もう思いつかない」と思うほど書き出すトレーニングです。
書き出すのは文字でも絵でも構いません。そうして書き出した案をはじめから
見直してみると、不思議なことに、あらゆる思いつきを書き出したはずなのに、
それらの案には何らかの傾向があることに気づくはずです。
その傾向というのは、あなたが得意な分野や、好きなこと、興味のあることと
関係していることが多いのです。
何か特定のテーマに関して、頭の中が空っぽになるほど案を出していくと、
全く役に立たない案もたくさんあるかもしれませんが、自分ではそれほど
意識していなくても、すぐに手がけることができるようなあなた好みのアイディアが
浮かび上がってきます。
逆に、その好みを外せば、あなたが今までに手がけたことのないアイディアの
ヒントになりますから、新たにチャレンジしてみたいアイディアを見つけることも
出来ます。

新しいアイディアのヒントが見つかったら、どうやって最終的なデザイン案に
結びつくアイディアを導き出せるのか考えてみましょう。
時には似たような案のいいとこ取りをして生まれるアイディアもあります。
最近、脳科学者の茂木健一郎さんなどがテレビで口にする
「セレンディピティ(幸福な偶然)」という言葉がありますがご存知ですか?
何かを探している時に、探しているものとは別の、価値あるものを見つける能力や
才能という意味です。
全然違う案を組み合わせることで予想もしなかったようなユニークで新鮮なアイディアが
生まれることもありますし、自分がひねり出した多くの案に含まれていないタイプが
分かり、それを意識することで自然には思いつかないアイディアにたどり着くことも
あります。
つまり、アイディアは組合せ方を変えることでまだまだ数え切れないほど生まれる
可能性があるということなのです。
デ大では、オープンキャンパスで「アイディアをどのように生みだし、育てるか」を
体験できるワークショップも行っていますので、興味がわいてきた方は
是非参加してみてください。

第7週 デザインのチカラ

2011年8月8日(月) 10:55

今週はデザインのチカラについて考えてみましょう。
デザインは「おもいを伝える」、という目的を持っているということは何度も
お話ししていますが、デザインは人を喜ばせたり、楽しませたりするほかに、
人を力づけたり、勇気づけたりすることもできます。

先日、長岡造形大学のガラス工芸を専門とする教員と学生達が地震で被災した
陸前高田に行って、被災者の方々とともにバーナーワークの体験ワークショップを
行いました。
バーナーワークというのは、バーナーの炎でガラスを熔融して様々な形を作る
ガラス成形の技法なのですが、現地で集めたビンやガラス製品を砕いて溶かし、
アクセサリーなどの作品をつくりました。
このワークショップに参加した方々は、お子さんからお年寄りまで、皆さん大変喜んで
くださり、一日も早く以前の生活や仕事を取り戻したいという気持ちを新たに
されたそうです。
ボランティア活動といっても、炊き出しや物資の支援だけでなく、こうした
「モノのデザイン」の体験型ワークショップを出前することで、人々を元気づけることも
できるのです。

今回の地震が発生してから、ACのメッセージ広告が連日テレビで流されていましたが
覚えていらっしゃいますか?
「思いは目に見えないけれど、思いやりは誰にでも見える」」というあの広告です。
おもいを行為に変えることで目に見えるものとなるというメッセージです。
広告というと、何らかの商品や製品の魅力を伝えて売り上げを伸ばすための
CM(コマーシャルメッセージ)を連想しますが、広告とは文字通り「広く告げる」こと
です。
つまり、社会に対して「みんな○○だと思いませんか?」といった具合に意見を
発信したり、呼びかけたりすることも広告の重要な役割なのです。

一昨年、長岡造形大学の視覚デザイン学科の学生が、毎日広告デザイン賞という
広告分野では大変有名なコンクールで最高賞を受賞しましたが、この学生が
取り上げたのは、ペット選びも慎重にというメッセージでした。
そのメッセージ広告のポスターには、「生涯愛し続けることを誓いますか?」
というメッセージとともにウェディングドレス姿の猿が指輪を持って立っている姿が
描かれています。
ペットを選ぶのも結婚相手を選ぶのと同じように、相手と自分の相性をよく見極めて、
一生一緒に暮らせる相手かどうか考えて欲しいと訴えています。

広告というものも人や社会に対してなんらかの変化をもたらすことができる、
影響力を持ったデザインと言えると思います。

第6週 コトのデザイン

2011年8月5日(金) 10:52

先回はグッドデザイン賞のお話をしました。
そして、受賞の証である「Gマーク」を受けた例をいくつかご紹介しました。
皆さんはインターネットでグッドデザイン賞のサイトをご覧になりましたか?
サイトをご覧になった方は、受賞対象は「モノのデザイン」が多いと感じたのでは
ないかと思います。今回はモノ以外のデザインにスポットを当ててみます。

実は2010年度のグッドデザイン賞ではネットワーク領域で
「エンターテイメントプロジェクトデザイン」として「AKB48」が選ばれています。
「会いに行けるアイドル」というコンセプトで、ファンとのコミュニケーションを
最大限に活用する考え方や、ファンから社会までも巻き込むプロジェクト展開を
企画して社会に非常に大きなインパクトを与えた、というのが受賞理由だそうです。
こうしたデザインは家電製品や文具のように、かたちがある「モノのデザイン」では
ありませんよね。
活動、情報、企画、コンセプトなど、「コトのデザイン」と呼ぶべきものかも
知れません。

以前、デザインは誰かの役に立ちたいとか、誰かを助けたいといった、つくり手の
気持ちや思いを伝えるためのもののだというお話しをしました。
つまりデザインはつくり手と使い手の間のコミュニケーションだということです。
このコミュニケーションを取り持つのは「モノ」ばかりではありません。
例えば災害復旧ボランティアを想像してみてください。
ボランティアに参加する人々は、もちろん困っている人の役に立ちたい、助けになりたい
といった思いや志を持っているわけですが、そのボランティアの人達をまとめて、
役割分担やスケジュール調整をしながら組織を取りまとめる役割も重要です。
組織として機能することによって、ボランティアに参加する人達の気持ちを、
大規模に、効果的に被災地へ届けることができるわけです。
その意味では、組織作りもデザインと言えるでしょう。
また、企画や販売の仕組み作りも「コトのデザイン」です。メーカーと呼ばれる
製造業は「モノづくり」に取り組んでいますが、生産する商品の企画や、
完成した商品の販売促進、つまり「コトづくり」とのコンビネーションが求められます。

まちづくり活動も同じです。まちに活気をもたらし、元気づけるための活動を
より効果的にするためには全体の仕組みを組み立てるデザインが必要なのです。
まちづくりには建物や施設、街灯などのモノも関わりますが、「モノのデザイン」
だけではなく、組織を構成すること、つまり「コトのデザイン」も大切です。
デ大では、「モノのデザイン」ばかりでなく「コトのデザイン」にも取り組んでいます。