第15週 花火とデザイン

2011年8月26日(金) 11:59

夏といえば花火大会。
各地で大きな花火大会が行われますね。
皆さんも見にいらっしゃったかもしれません。
花火大会の起源は、日本では八代将軍の徳川吉宗が疫病による死者の鎮魂と無病息災を
祈念して行った「両国川開き」で花火を上げたことだといいます。
元々、花火は鎮魂や神への祈りを目的として始められたものなのですね。

新潟では、長岡造形大学もある長岡の大花火大会が全国的に知られています。
今年も2万発近い花火が上がり、40万人が見事な花火を鑑賞したそうです。
特にフェニックス花火は、中越地震の復興を祈念して打ち上げられるようになった
花火ですが、今年3月に発生した東日本大震災の復興も併せて祈念されています。
実は、今年はこの花火大会が行われる直前の7月末に大雨で打ち上げ場所や観覧席が
水没するなど、大きな被害が発生して、一時は開催が危ぶまれました。
しかし、多くの方々の協力で、打ち上げ場所や観覧席が大変な早さで復旧され、
今年も無事花火大会が行われました。

花火大会は、打ち上がった花火に感動するのはもちろんですが、花火が打ち上がるまでに
多くの関係者が準備し、花火師さん達が手塩にかけた花火を製作して打ち上げています。
花火大会の花火がこうした沢山の人の努力の結晶であることを思うと、大会運営に
関わる人達と、花火を鑑賞する人達とが花火を通じて心を通わせるコミュニケーションだ
と言えるでしょう。

花火は火薬に混ぜた金属を高温で燃やす際の炎色反応を応用して色をつくるものです。様々な色の組合せやカタチが見事に創り出されますね。
最近では、ドラえもんやアンパンマン、キティちゃんなどを模した花火も打ち上げられて
います。
ところで、日本の花火は打ち上げられると円いものが多いですが、
理由をご存知でしょうか。
実は欧米のいわゆる「ファイアーワークス」と呼ばれる花火は円くないものが
多いのです。
日本では河原などで打ち上げられるため、川下、川上、右岸、左岸など多方向から
鑑賞されることを考えて、どの角度から見ても同じ形に見えるように円く上がるように
作られたのだそうです。

大花火大会に見られるような大規模な花火は、花火の玉を製作する技術や大空に描く
花火の大輪の造形的な美しさを考える構想力、そして、安全確実にタイミングを
計って打ち上げを行う機器の操作など、多くの技術や知恵によって実現されています。
打ち上げられた花火は、モノとして原形をとどめること無く、人の心の中に大きな
思い出だけを残して空に消えていきますが、花火の記憶や感動は人々の心に勇気と
希望を与えてくれます。

戦没者の慰霊や復興を祈念する大花火も、ただ単に観光名物や美しい造形作品で
あるばかりでなく、打ち上げる花火師さんや人々が心を通わせる、
大きなスケールのデザインなのです。

第14週 空間のコーディネート

2011年8月19日(金) 0:02

今週は空間のデザインについて考えてみましょう。
私が元々、建物の設計を専門とする建築家であることは以前お話ししました。
建築の設計と言っても、単に建築物の色や形や間取りを考えるだけでなく、
どんな構造形式で、どんな設備を備え、どんな材料を用いるか、
またインテリアや庭はどんな風にしつらえるかなど、総合的に考えていきます。
単に建物の外観の形や色だけを考えるわけではないのです。
これはインテリアのデザインでも同じです。
床や壁にどんな仕上げ材料を使って、どんな色でまとめるか、どんな家具を置いて、
どんな照明を使ってカーテンは何色?なんてことをトータルに考えます。
つまり、家具だけ、照明器具だけを提案するのではなく、あくまでもその空間の
構成要素全体の組合せをトータルにコーディネートすることが求められるのです。
これは、洋服の色や素材をどのように組み合わせるか、どんなアクセサリーを
身につけて、どんな靴を履くかを考えるコーディネートと同じですね。
どんなにきれいにメイクしても、バッチリ洋服が決まっていても、ミスマッチな靴や
帽子では台無しですよね。
住宅でもレストランでも、トータルコーディネートが空間の快適さや心地よさを
創り出すのです。

都市のデザインにもトータルコーディネートが求められます。
都市は、街並みや自然の風景、建物、野外施設など様々な要素で構成されていますが、
特定の建物や施設が魅力的であっても、都市の構成要素がトータルに
コーディネートされていなければ魅力は半減してしまいます。
街の灯を例にすると、最近は建物単体のライトアップだけでなく、街全体を照明で美しくコーディネートする照明デザインの試みも多く見られます。今は節電で照明器具の点灯が控えめになっているので、なおさら照明の効果を実感する機会も増えています。
ところで、照明デザインというと、ライトスタンドなどの照明器具をデザインすること
だと思っている方も多いと思いますが、実は照明を用いて空間をコーディネートするのが
照明デザインなのです。
都市には昼間の表情もありますが、照明デザインは昼間とは異なる夜の表情も創り出し
ます。新潟でも、万代島や万代橋などがライトアップされて水辺とマッチした風景は
とても魅力的ですよね。

室内でも照明デザインは非常に有効です。
単に明るさを創り出すだけでなく、程良い暗さを演出することで、落ち着いた
リビングになります。
また、照明の色温度を工夫することでお料理が美味しそうに見えるダイニングに
なります。

構成要素のトータルコーディネートは快適な空間という「場の雰囲気」を創り出す、
いわば「コト」のデザインなのです。単なる「モノ」のデザインではないのです。

第13週 かたちのないものをいかに伝えるか

2011年8月12日(金) 0:34

新聞・雑誌に掲載されている広告や、テレビ・ラジオなどで流れている
コマーシャルについて考えてみましょう。
広告やコマーシャルは、商品やサービス、アイディアなどを読者や視聴者に伝えて、
それが商品ならば購入する気にさせようと考えているはずです。
つまり、一般の方がまだ手に取ったことの無いもの、新しい製品を言葉や目に見える
情報で伝え、興味を持たせることが目的です。
ここで重要なのは、つくり手や提案する側がまだ未経験のモノやコトがもたらす印象を、
言葉や視覚的な表現で相手に伝えることです。
食べ物ならば味、香水ならば香りをいかに未体験の人に伝えるか、その力が
求められます。

グルメリポーターの彦麻呂さんが「宝石箱や〜」などと料理の味を例えますよね?
香水評論家がフェラガモのある香水を「高貴さと個性を兼ね備えた香り」と
表現したことなども、言葉で聞き手に現物を想像させます。
体験を言葉にすることで人と共有する「言語化」もデザインなのです。
体験の言語化もデザインだというコトに関してですが、勲章も受章している
世界的に有名なワインソムリエの田崎真也さんの「言葉にして伝える技術」や、
ほとんど毎日テレビで見かけるジャーナリストの池上彰さんの「伝える力」といった
本が最近ベストセラーになっています。
これは、多くの人々がどうしたらうまく自分の考えを伝え、人と円滑に
コミュニケーションを図れるか悩んでいることの表れだと思います。
ソムリエはワインの味という「経験」を言葉で伝え、お客様が求めるワインを選ぶのが
仕事、ジャーナリストは「出来事」を理解し、難しい事件であっても一般の方が
理解できる言葉で説明するのが仕事です。
彼らに共通するのは、常日頃から自分の経験や感想を言葉する作業を繰り返している
ことです。
何となく頭の中にあるイメージのままではその情報を人と共有することは出来ません。
かたちにすることではじめて経験という情報を共有できるのです。
伝えたいことをいかに伝えるかを考える点では、ソムリエの仕事もジャーナリストの
仕事もデザインと密接に関係しているのです。

第12週 アイディアの引き出し

2011年8月8日(月) 15:00

先日、大学のオープンキャンパスで、「貴方のアイディア育てます」という
ワークショップを他の教員と一緒に担当しました。
アイディアは困っていたり、悩んでいたりすると神様がポトリと落としてくれるような
ひらめきだと思っている方もいらっしゃるかも知れません。
でも、実はアイディアは、真っ白な頭の中に突如降ってわいてくるようなものでは
ありません。
それぞれの人が生まれてから今日までに体験したこと、聞いたこと、知ったことなど、
意識・無意識に関わらず、脳の中に蓄積されているもの達の組合せで生まれてくる
ことの方が多いと思います。

生まれて間もない、ほとんど経験や知識を持たない赤ん坊にはアイディアという概念は
芽生えていないはずですが、幼稚園や小学生ぐらいの子どもの行動にも、
工夫や発想は見られます。
小さなお子さんをお持ちの方や、少し歳の離れた妹、弟がいる皆さんは、小さな子を
観察していると色々おもしろいことに気づくのではないでしょうか?
何度も同じ試みを繰り返していてもうまくいかなくて、やがて別の方法を試し始める
という様子を一度はご覧になったことがありませんか?

アイディアは意識・無意識に関わらず、脳の中に蓄積されているものの組合せや
応用によって生まれてくるものです。
では、この「引き出し」を自在に使いこなせるようになるにはどうしたらいいので
しょうか?
1度目は失敗でも、少しやり方を変えることで成功にたどり着くことがあります。
これは、ある思いつきがそのまま成功に結びつかなくても、そこに少しの工夫や
応用を加えることで次第に成功へと近づいていくということです。
つまり、単純なものでも既にそこにあるものでも構いませんので、それを少し応用する、
あるいはアレンジを加えてみることで新しいものが生まれるきっかけになります。
アイディアがなかなか思いうかばない、自分はセンスがないのではないか、
と思っている方は、是非、あなたが最近興味のあること、好きなこと、驚いたこと、
気になっていることからスタートして、それに少し工夫や応用を加えてみては
どうでしょうか?
最初から、新鮮なものやユニークなものを生み出そうとする必要はありません。
まずは、好きなものや興味があることから連想される思いつきを文字や絵で具体的に
描き出してみましょう。
こうして書き出すことで、頭の中にしかなかったものが「目に見えるもの」になります。
身近なところからスタートして、結果的に思わぬひらめきに到達することがあります。

第11週 素材との対話

2011年8月8日(月) 14:56

先日はデ大のオープンキャンパスでしたが、この番組のパーソナリティの
今井美穂さんをゲストにお迎えして、「デザインってなに?」という、この番組の
スピンオフプログラムも行いました。
いつも音声だけでお届けしている「デザインの話」も、画像や映像付きだと大分
印象が違ったのではないかと思います。

さて、以前、「色や形や素材はおもいを伝える手段だ」という話題がありましたが、
今週は、この「素材」に注目して、デザインにおける「素材との対話」について
考えてみましょう。
素材といってもいろいろありますが、ここではまず、想像しやすい紙を例に考えます。
紙の性質というと何を思い浮かべますか?破れやすい、濡れると溶ける、…
そんな感じでしょうか。
確かに破れやすい、水に溶ける、という印象は紙の代表例ですね。
でも、実際はうっかりすると指を切ってしまうような硬い紙もあるし、
紙の繊維方向によっては簡単に破れないこともあります。
素材の本当の特性を知るには、手にした紙を扱いながら確かめる、つまり紙という
素材と対話することが必要なのです。
デ大の1年生は「基礎造形実習」という科目の立体構成の課題で、紙で出来た立体で
1.5キロもある重たいレンガを持ち上げるというテーマで作品製作に取り組んでいます。
普通に考えると、あの弱々しい紙でどうやって重たいレンガを持ち上げるのだろうかと
思われるでしょうが、紙の強さが発揮できる使い方や力の流れを理解すれば紙の立体で
レンガを支えることは十分に可能なのです。

金属や樹脂素材(プラスティック)でも素材によって、用途に向き不向きがあります。
素材の特性が活かされることで魅力的な製品や作品になることもありますが、
逆に素材の限界への挑戦、つまり素材の限界特性を引き出すことで生まれる個性も
あります。
「モノづくり」によるコミュニケーションはデザインの代表例だと思いますが、
制作過程では素材とつくり手とのコミュニケーションが大切なのです。
つくり手の優れた技術はもちろん大切ですが、十分な「素材との対話」があって
はじめて優れたデザインが生まれます。
また、異なる素材を組み合わせ、それぞれの素材の利点を引き出しつつ、一つの製品や
作品にまとめる、いわば異素材のコラボレーションも大きな可能性を秘めています。
長岡造形大学の美術・工芸学科では、異なる素材や異なる手法を組み合わせて
一つの作品を制作する演習授業を展開しています。
学生達は「素材との対話」の中で、人に伝わるデザインの技術を体得していくのです。